平成29(2017)年度に、法文学部は改組され、今年度その完成年度を迎えます。この改組の主なコンセプトは、人文社会科学に関する総合力をもった、広く社会に貢献できる人材を育成する学部をつくることでした。効果的にこれを実現するために、改組後のカリキュラムには、「深く学ぶための」専門科目はもちろんのこと、「広く学ぶための科目」および「学びを活かすための科目」が配置され、学生が、人文社会科学の基礎から実践までを段階的に学習できる構成になっています。「広く学ぶための科目」としては、学部共通必修科目としての「人文社会総合論」が新規開講され、すべての法文学部生は、学科・コースの垣根を超えて人文社会科学の基本的な知識・学びの視点を広く身につけることができるようにしました。また、「学びを活かすための科目」については、各コースに配置された演習・実践科目のほか、学部共通の法文アドバンスト科目としての「観光学」、「島嶼ツーリズム論」、「まちづくり論」、「マスコミ論」、「海外異文化体験実習」などが新設・配置されました。これらの科目には、大学の教室外での活動、すなわち、学外での研修、調査研究・発表等が含まれています。
私は、「学びを活かす科目」のうち、法学コースが開講する「実践演習(外国の法を学ぶ)」を担当しています(今年度からは法文アドバンスト科目のうち「海外異文化体験実習」も担当予定)。私が大学の法学部に入学して法律を学び始めた当時は、一般的な法学部には海外研修を含む科目はほとんど開設されていなかったように思います。現在では、経済活動のグローバル化は、その当時に比べて一層進展しております。そのため、国境を跨いで法律問題が生じることも珍しくなく、社会は、こうした問題に挑み、解決することができる人材を求めています。渉外的な法律問題に対応できる人材育成、すなわち、法学教育の国際化は重要な社会的ニーズであると言えます。こうしたニーズを踏まえ、2014年度に、海外研修を含む科目としての「法律学特殊講義(外国の法を学ぶ)」が、改組前の法政策学科に開講されました。改組後の「実践演習(外国の法を学ぶ)」は、その内容をより充実・発展させたものです。
この科目は、毎年9月に集中講義として実施され、2014年度から2019年度までの6年間に27名が履修しました。この科目の履修者は、本学内において法律英語の基礎知識を身につけた後、カナダ・ブリティッシュコロンビア州にあるヴィクトリア大学での研修に出かけます。同大学では、ロー・スクールが開講する科目を受講するとともに、法律問題をテーマとしたプレゼンテーションを行います。プレゼンテーションでは、履修者は、事前に与えられたテーマ(これまでのテーマとして、「Corporate Social Responsibility in Japan」、「Gender and Law in Japan」など)について研究した成果を英語で発表します。発表が終わると、息つく暇もなく、ヴィクトリア大学の教員・学生による容赦のない英語での質問攻めに晒されます。この研修に参加する学生の多くは、法律問題についての英語による発表経験はないため、ほとんどの学生は英語での応答に苦戦します。この科目では、学生に、専門として学習しいている法律学の知識を英語で活用する能力を身につけてもらうことが主な目的ですが、学生が自己の英語力レベルを実感することにより、今後の学習意欲を高めてもらうことも重要な目的と考えています。このほか、立法府であるブリティッシュコロンビア州議事堂での研修、および州裁判所における裁判傍聴も実施されており、この研修では、法律学の理論と実務の双方を英語で学習することができます。
法文学部では、法文学部同窓会のご寄附により学部の教育研究活動のための「法文学部同窓会教育研究助成基金」が設立・運用されています。これまでに、ここに紹介しました「実践演習(外国の法を学ぶ)」を履修した学生は、この基金によるご支援をいただきました。こうしたご支援により、法文学部における「学びを活かすための科目」の充実が図られています。今年度は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、地域社会・国際社会を舞台とした学外実習等の実施が困難な状況にありますが、今後も、実践力のある人材を育成するために、地域性・国際性のある実践科目をより充実させていきたいと考えています。法文学部同窓会には、引き続き、法文学部の教育研究活動へのご理解とご支援をいただきますよう、お願い申し上げます。